みかん
おかっぱ頭に
林檎みたいな
まっ赤なほっぺをさせて
くりくりまなこを
キョロキョロさせながら
大曲から
集団就職で
上野の駅に
降り立った
お母さんの夢は
何だったのですか
大きなバックと
残りは東京に着いてから
食べようと
大切にとって置いた
赤い網に入った
冷凍みかんを抱えながら
右のポッケには
不安が入って
左のポッケには
入りきれないほどの
夢を
いっぱい
いっぱい
詰め込んで
お母さんは
上野の駅に
降り立ったのですね
お母さん
いまでも
上野の駅には
冷凍みかんがあるんですよ
だから
僕は
みかんが
大好きです
みかんは
お母さんの
夢だったからです
そして
お母さんは
この世で唯一の
僕の
みかんだったのです
僕は
みかんを
失ってしまいました
たった一個の
大切なみかんは
もう二度と
戻って来ません
誰にでも
大切な
みかんがあります
でも
生きていくって
そのみかんと
別れていくことでは
ないでしょうか
お母さんも
みかんを
求めていたのですね
自分だけの
大切な
大切な
みかんを
求めていたのですね
義明
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